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糸井 |
そうそう、あとは、
ラブシーンがよかったです。
ラブシーンはぜんぶ素敵でした。
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重岡 |
あ、ほんとですか。よかった。
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糸井 |
大人っぽいやつも、
プラトニックなのも、
ことごとく素敵でした。
ラブシーンを書くにあたっては、
なにか意識されましたか?
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三谷 |
僕はあんまり恋愛ものって
書いたことがないんですね。
今回、ジャンルとしては家族ものだし、
まさにホームドラマではあるんだけども、
フジテレビの50周年企画ということもあって、
とにかくいろんな要素をぜんぶ
詰め込んでしまおうと思っていて。
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糸井 |
はい。
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三谷 |
だから、ヤクザっぽい話も出てきますし、
歴史的なエピソードも入ってきますし。
で、そのなかには当然、
恋愛ものも入ってくるべきですし。
だから、自分としては、
こんなシーンを書くのってはじめてだな、
という場面がたくさんありましたね。
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糸井 |
ああ、そうですか。
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三谷 |
たとえば、
松本潤さんと長澤まさみさんが
キスとするところで、
長澤さんはお金持ちの娘で、
松本潤さんは貧乏な家の子どもなんですけど、
松本さんが彼女を家に送ってあげて
別れ際、門の鉄格子ごしにキスをする、
みたいな場面があって。
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糸井 |
はい、はい。いいですね、あそこ。
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三谷 |
僕のイメージでは、
こう、ふたりの真ん中に鉄格子があって、
ちょうどそこの隙間に
ふたりの顔が寄っていって、
チュ、っていうふうにさせたかったんですが。
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糸井 |
そうじゃなかったですね。
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三谷 |
はい。
松本潤さんが、顔を、ものすごく、
だぁーっと突き出してしまって。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
そうそうそう、あれがいいんだ(笑)。
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三谷 |
あれ、よかったですか。
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糸井 |
よかったですよ。
おもしろいだけじゃなくて、
好きなのに、あんな門が間にあったら
ああするしかないかもなぁって思って、
ちょっとジーンとしちゃった。
かっこよくはないんだけど、
その不手際が、いいんですよ。
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三谷 |
よかったんですね。
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糸井 |
よかったです‥‥あれ?
じゃ、あれも台本じゃなく?
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重岡 |
あの、美術のスタッフが、
本格的な門をつくりすぎてしまって。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
ああー、厚みをつけすぎちゃったんだ(笑)。
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重岡 |
ええと、具体的にいうと、
縦と横の柵だけじゃなくて、
ななめのものもつけてしまったんですね。
その、デザイン性を重視して。
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糸井 |
「デザイン性」(笑)。
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重岡 |
だから、そのまま寄っていくだけでは
顔がくっつかないんです。
だから、松本さんはこうやって、
首だけを亀のように
にゅーっと出してキスするしかなくて。
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三谷 |
ああ、そういうことだったんだ。
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重岡 |
そうなんです。門のデザインなんですよ。
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糸井 |
原因は。
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重岡 |
はい。だから、なんていうか、
きれいに唇がくっつくわけじゃなくて、
ガタガタガタってくっついてる。
そこが逆に生々しいというか。
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糸井 |
そうそうそう。
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重岡 |
なんか、
ヘンなキスシーンになっちゃったんです。
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糸井 |
はぁー、そうでしたか。
でもね、結果的にあのシーンは
大名作になってると思いますよ。
というのも、あそこでの松本潤さんは、
恋愛に関してすごく素人じゃないですか。
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重岡 |
そうですね。
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糸井 |
で、ものすごく長澤まさみさんのことを
大事に思ってるし、長澤さんのほうは、
屈託なく「どうぞ」っていう
状態でいるわけですよね。
そのときに、まったく恋愛経験のない人が、
門から顔を出してチューしようと思ったら
柵がジャマして無理だった。
長澤さんはそのまま待ってる。
そしたらね、真っ直ぐな人だからこそ、
もう一回乗り出して、
不手際だろうと亀のように顔を出して
チューをするだろうと思うんです。
だからね、そんなことをさせる脚本家って
すごいなぁと思ってたんです。
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重岡 |
ふふふふふ。
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三谷 |
しかし、そんなことは台本には書かれてない。
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一同 |
(爆笑)
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三谷 |
僕は単純に、ほら、昔の映画で、
ガラス越しにキスする
場面ってあるじゃないですか。
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糸井 |
はい(笑)。
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三谷 |
あれをなんかこう
門の柵でやるといいかなと。
ロマンチックかな、ぐらいしか
考えてなかったんですけどね。
‥‥まさかあんな名場面になるとは。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
ロマンチックだけじゃなくて、
いろんなものが表現できましたよね。
お屋敷の重厚感とかも(笑)。
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三谷 |
そうなんですよ。
たとえば、あそこで、
長澤さんがもう一歩前に出てくれれば、
松本潤さんはあんなに
顔を出さなくてもいいんだけど‥‥。
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糸井 |
いや、歩み寄りがないところが、
お嬢さんなんですよ。
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三谷 |
そう、あれがいいんです。
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糸井 |
いいんです。
「恋って、そうだろうよ」
っていう感じがするんですよ。
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三谷 |
‥‥‥‥結果的にね。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
あの、「総合芸術」。
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三谷 |
まさに「総合芸術」です。
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糸井 |
あと、ラブシーンでいうと、
あそこもたまんなかったなぁ。
柴咲コウさんが
「抱いてください」って
言う場面があるじゃないですか。
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三谷 |
‥‥‥‥あれは‥‥ですね。
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糸井 |
え! ‥‥「総合芸術」ですか。
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一同 |
(笑)
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三谷 |
あそこは、
佐藤浩市さんが浮気をして
柴咲コウさんがそれを知って、
で、まぁ、佐藤さんが謝るシーンなんです。
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糸井 |
はい。
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三谷 |
正直、かなり悩んだんです。
そういうシーンを書いたことがないから。
男は、ああいう場合、なんと言って謝るのか。
そして女は何と言って許すのか。
男の方はなんとなく思いついたけど、
柴咲さんのリアクションが出て来ない。
頭で考えるから、
どうしても理屈っぽいセリフになってしまう。
で、どうしようかなぁと思って
何回目かの、台本打ち合わせに
ま、とりあえず書いて持って行ったんですよ。
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糸井 |
うん、うん。
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三谷 |
当然、そこのセリフに関しては、
自分でも納得してない。
それで、打ち合わせのときに、
重岡さんと、もうひとりの、
プロデューサーの大多さんに相談したんです。
柴咲さんに何を語らせるか。
で、この場にいない人のことを
言うのはなんですけど、
その大多さんというのがですね、
なんというか、そういう場面に、
たいへん慣れている人でして‥‥。
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糸井 |
ああ、豊富な経験をお持ちの人なんですね。
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三谷 |
すっごく経験してる人なんですよ。
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一同 |
(笑)
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三谷 |
その人が言ったんですよね。
語らせる必要はない。
「抱いてください」の一言でいいと。
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重岡 |
そうですね、はい。
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糸井 |
つまり、そこも三谷さんじゃなかったんだ。
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三谷 |
僕じゃないんです。
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一同 |
(笑)
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三谷 |
いや、あれは僕には書けない。
思いつかない。
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糸井 |
たしかに、「抱いてください」って、
ありえないんですよね、
ふつうの三角関係だったら。
ふつうに考えるとあそこはむしろ、
「抱かないでください」になるんですよ。
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三谷 |
うん。
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糸井 |
男は「ごめん」って言ってるけど、
謝ることさえ腹が立つ、
わたしに触れないでくださいって
ふつうはなるはずなので。
だから、あそこで「抱いてください」って
言える人がいるとしたら、それはそうとう
「愛」の優先順位が高い人なんですよ。
つまり、プライドとか、常識とかじゃなく、
「愛」が重要だという人。
それを、正妻じゃなくて愛に生きている
柴咲コウさんに言わせるというのが
すごいなぁ、と思ったんですよ。
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三谷 |
でもそれは、僕じゃなくて
大多さんがすごいんですよね。
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一同 |
(爆笑)
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糸井 |
や、そうでしたかぁ(笑)。
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三谷 |
つまり、糸井さんがいいと思ったシーンは、
全部、僕じゃない。
ただし。ただし、ですよ、
大多さんがそこで
「『抱いてください』はどうだろう?」
っていうふうに提案したとしても、
それを採用するかしないかを決めるのは、
僕ですからね!
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一同 |
(爆笑)
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糸井 |
ははははははは、
そう、そうですね(笑)。
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三谷 |
つまり、結果的には、
僕が書いたのといっしょなんですよ。
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糸井 |
いや、そうです、おっしゃるとおりです。
その通りですね。
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重岡 |
(苦笑)
(つづきます)
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